売るのは「焼きたて体験」?

 
2万円超」トースターが激売れ中
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 モノが売れない時代でも、爆発的に売れている商品がある。2万円超の「高級トースター」がなぜ売れるのか??
 
 トースターなんてパンが焼ければいいだけ。機能も、メーカーごとに大きな違いはない。だから、安いものでいい。いまや価格帯の底値は2000円前後だ。「枯れた技術」とさえ呼ぶ人のいるトースターという領域に、ベンチャー家電のバルミューダは切り込んだ。
 
「バルミューダ ザ・トースター」。価格は税込みで約25000円。高価格だが、どんなパンでも「お店の焼きたて」を実現する機能が「魔法」「革命」と絶賛を浴び、売れに売れている。昨年6月の発売後、初回生産の2万台が1カ月も経たずに完売。現在までに10万台以上が売れ、客注商品を生産するだけでやっとの状態が続いている。
 
「創業以来ダントツの売り上げ」と言うバルミューダの寺尾玄さんは、異色の経営者だ。
 
 高校を中退し、欧州を放浪。ミュージシャンを経て、2003年に起業。大手メーカーの汎用品とは違う商品をつくるのがコンセプトだ。10年には、自然界の風を再現する「グリーンファン」を発表し、扇風機の世界に革新を起こした。ただ、どの商品も当たったわけではない。より「違い」が実感できる商品を目指し、今回のトースターのヒットが生まれた。
 
 食パンを1枚焼いたら、違いがよくわかる。スーパーで買ってきた食パンを3分で焼き上げると、バターと小麦の香りが鮮やかに広がる。外はカリッ、中はふんわりの食感はエンターテインメントですらある。
 
 この製品がもたらすのは、既存のトースターでは実現できなかった「体験」だ。
 
「いまの社会、モノはもう足りている。単なる『利便性』は求められていない。だとしたら、人は何にお金を払うのか。『体験』じゃないか」(寺尾さん)
 
 この体験とは、ウェブやテレビで流通するコンテンツではない。五感を駆使して得る経験だ。毎日繰り返す習慣であるほど、変化のインパクトは大きい。
 
 毎朝食べるパンについて、寺尾さん自身、こう感じてきた。
 
「なぜ、ベーカリーでの焼きたてと違うのか」
 
「別物」とでも言いたくなるぐらいの差をテクノロジーで埋めたい。試行錯誤を続けていくと、おいしく焼き上げるには、「水分」が重要なことがわかった。
 
 既存のトースターは表面を焦がしはするものの、中の水分まで飛ばしてしまう。これでは、ふんわり感が出ないし、焼きたての香りを損なう。そこでスチームしながら、表面をカリッと焼き上げる温度調節の機能を盛り込んだ。庫内の温度を制御するために、パソコン用のプロセッサーを組み込んだ。
 
 焼きたてを届ける。この一点に技術特化し、よけいな機能はつけない。技術コストに見合った価格をつけた結果が、異例の2万円超。トースターというモノを買うだけなら高いが、全く別物の体験を買うなら高いとはならなかった。高価格でも異例の売れ行きなのはそのためだ。